鍼灸は「医業」の一部である ~鍼灸、井穴刺絡の法的解釈について~

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2018年3月11日の第一回井穴刺絡学会学術大会の特別講演で、元厚生労働省教官の芦野純夫先生が、鍼灸治療、井穴刺絡の法的解釈についてのお話がありました。
医療関係者ならびに一般の方も、是非知って頂きたい内容でしたので、ここに記載します。
なお、資料の掲載については、芦野純夫先生より許可を頂いております。

2003年(平成15年)4月3日の「点字毎日活字版」(毎日新聞社発行)に掲載されたものを転載します。
※あはき施術の法的誤解をめぐって.pdfのダウンロード
以下、転載はじめ。

①法律上の「施術行為」と「医業類似行為」とは別もの

 最近の本紙「読者のひろば」に鍼灸師の瀉血を「違法行為では?」といぶかる投書が載せられていました。これは 4条の違反となる瀉血療法と、鍼術の範囲にある三稜鍼を用いた刺絡(平成9年の厚生省大臣官房発行『理療教育課程教科指導要領』では、「刺絡鍼法」として特殊鍼法の一つに位置づけています)との違いから論ずる必要がありますが、あはき師が法的に本当はどう位置づけられるのかを先に説明しておきましょう。

 よく「法的には医療類似行為とされている」言われますが、法律上の総称は「施術行為」で医療類似行為という用語は存在しません。「医業類似行為」は 12条に出てきますが、免許制のない種々雑多な民間治療を一括した法令上の名称で、 1条にある「医師以外の者で」免許を得れば、医師でなくても限定した医行為を許した「施術行為」とは別ものです。医業に類似した行為じゃないかと誤解しがちですが、法律用語は国語で捉えてはいけません。法律で「少年」と言えば20歳未満の男子少年・女子少年のことで、法律上の「医師」には歯医者さんは含まれませんが、誰も歯科医を類似行為者だなんて呼びません。あはき師も法律上は歯科医と同じく、医師法17条に規定して医業独占を部分解除した資格で、医業の一部と見なされるものです(昭和25年、厚生省医務局長回答)。

 あはき施術を類似行為と混同した誤解は、昭和35年の最高裁判決あたりから生じました。あれは医業類似行為を禁止した法12条が、職業選択の自由を保証した憲法22条の違反かどうかを争った裁判ですが、判決は被告の主張する違憲と言う訴えを退けているんです。すなわち、医業類似行為者の治療行為は危害を与える恐れがあるため、12条での禁止規定は合憲と判決しました。ただし、その治療行為が危害を与える可能性について判断するように求め、仙台高裁に差し戻しされ改めて有罪で決着したのです。

 その高裁での2審判決で「医業類似行為」の定義が先に述べてきたとおり示され、以後これを覆した判決はありません。最高裁も「あはき等の免許行為は医業類似行為に含まれない」と、厚生省の照会に文書で回答しています。行政上の思惑から広義だ狭義とか無理やり医業類似行為とされることはあっても、三権分立の建前から法解釈は行政でなく司法が行うものです。あはき施術が正しくは「医業類似行為」とは違うことをよく知っておいて下さい。

②法12条は免許者に医業類似行為を許可したのではない

 先月の無資格マッサージを特集したテレビ番組では私が取材を受け、それが12条の医業類似行為ではなく、1条の無免許行為に該当すること、彼らを守っているのは例の最高裁判決ではなく(前述のとおり判決は医業類似行為を解禁したものでないのに、皆そう誤解しています)、実は19条が彼らの後ろ盾となっていることを、1時間にわたりインタビュー形式で答えたのですが、放映は45秒で肝心な部分は全部カットされていました。

 問題は私のコメントに続いて12条を読み上げ、「つまり、免許がなければ医業類似行為はしてはならない」と解説が入っていたことで、12条1条の施術行為を医業類似行為とした条文ではなく、免許者ならば医業類似行為も行えるとした条文でもありません。正しくは「医業類似行為、すなわち免許制のない治療行為(ただし、手技療術はすべて昭和30年から「指圧」に包含されています)は何人も行えず、例え1条の免許者であってもその1条行為以外に及んではいけない」という意味です。
 
 従って、番組での解説は全く取り違えた誤りなのです。あはき師は免許範囲に限定した治療のみを行えるだけですので(それで「治療院」の名称は本来不可なのです)、鍼灸もその範囲いっぱいの手段を駆使出来ないと、免許者としての責務を果たせません。盲人の場合、透熱灸や井穴刺絡も行えることが重要ですが、国リハでは共に簡単な補助具を使って、全盲の者でも自在に行える方式が実技授業で教えられています。

③刺絡は「明二 鍼術ノ一法ニ属ス」(大正12年、大審院)

 戦前の営業取締規則では第7条に瀉血・電気・烙鉄(焼き鍼)の禁止条項があり、例え鍼術の範囲でもこれらに及ぶことは禁じられており、刺絡と今日では当然の電気鍼や電気でのツボ探索、灸頭鍼も当時は違反でした。ところが戦後の法律化にあたり、あん摩・鍼灸は医業の一部と見なされたので、教育も当初は高卒・大卒者でも医専並みの5年4865時間も課せられたのです。この時、旧取締規則の禁止条項は削除され、鍼灸の範ちゅうにあれば行えることになりました。(ただし、鍼灸でない単なる瀉血療法や電気治療は行なえません)

 昭和29年には厚生省医務局長が「鍼師の業務については4条(外科手術と投薬)及び6条(消毒義務)に規定する以外特に定められていない」と回答していて、鍼術の一法と既に認定されている刺絡も行えるわけです。尖端が三稜形の鍼を体表のうっ血部にごく浅く刺すだけの、比較的安全で即効的な作用をもつ鍼法ですが、その鍼尖形状に由来する微量の出血に対しては、六条で厳しく消毒が義務づけられています。『黄帝内経』で鍼を示した部分の6割が刺絡と言われ、『杉山真伝流』も32ヵ所に刺絡の記述があります。刺絡は鍼灸のアイデンティティーにかかわる、極めて重要な鍼法と認識しています。(筆者は国リハ理療教育部教官・理教連国家試験対策部長)

以上、転載おわり。

法律に関して、私から追加解説です。
上記に出てくる、法律の条項は、昭和22年法律第217号の「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」を指しています。
以下に上記文章に出てきた法律の条文を掲載します。

昭和二十二年法律第二百十七号 あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律

第一条 医師以外の者で、あん摩、マツサージ若しくは指圧、はり又はきゆうを業としようとする者は、それぞれ、あん摩マツサージ指圧師免許、はり師免許又はきゆう師免許(以下免許という。)を受けなければならない。

第四条 施術者は、外科手術を行い、又は薬品を投与し、若しくはその指示をする等の行為をしてはならない。

第六条 はり師は、はりを施そうとするときは、はり、手指及び施術の局部を消毒しなければならない。

第十二条 何人も、第一条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならない。ただし、柔道整復を業とする場合については、柔道整復師法(昭和四十五年法律第十九号)の定めるところによる。

第十二条の二 この法律の公布の際引き続き三箇月以上第一条に掲げるもの以外の医業類似行為を業としていた者であつて、あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法等の一部を改正する法律(昭和三十九年法律第百二十号。以下一部改正法律という。)による改正前の第十九条第一項の規定による届出をしていたものは、前条の規定にかかわらず、当該医業類似行為を業とすることができる。ただし、その者が第一条に規定する免許(柔道整復師の免許を含む。)を有する場合は、この限りでない。

第十九条 当分の間、文部科学大臣又は厚生労働大臣は、あん摩マツサージ指圧師の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合、あん摩マツサージ指圧師に係る学校又は養成施設において教育し、又は養成している生徒の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合その他の事情を勘案して、視覚障害者であるあん摩マツサージ指圧師の生計の維持が著しく困難とならないようにするため必要があると認めるときは、あん摩マツサージ指圧師に係る学校又は養成施設で視覚障害者以外の者を教育し、又は養成するものについての第二条第一項の認定又はその生徒の定員の増加についての同条第三項の承認をしないことができる。

○2 文部科学大臣又は厚生労働大臣は、前項の規定により認定又は承認をしない処分をしようとするときは、あらかじめ、医道審議会の意見を聴かなければならない。

第十九条の二 都道府県知事は、一部改正法律による改正前の第十九条第一項の規定による届出をしていた者が、当該届出に係る医業類似行為が指圧であつた場合にあつては昭和四十二年十二月三十一日まで、当該届出に係る医業類似行為が指圧以外のものであつた場合にあつては昭和三十九年十二月三十一日までの間に行われる第二条第一項のあん摩マツサージ指圧師試験に合格したときは、同条同項の規定にかかわらず、その者に対してあん摩マツサージ指圧師免許を与えることができる。

以下、私(院長)のコメント。
あはき(あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師のこと)施術は、医業独占を部分解除した資格で「医業」の一部と認識している日本国民が、どれほどいるであろうか。
ほとんどの国民は、鍼灸、マッサージの施術を「医業類似行為」と誤解して認識しているであろう。
また、医療関係者の中でも、「医業」と「医業類似行為」を誤解して認識している者が多数いると推測される。
鍼灸をやっている身としては、社会的に誤解されたまま、業を行い続けることは、残念であり、業界としても誤解を解く努力をしていかなければならないと思う。

あはき免許は、自動車免許でいうところの、「オートマ限定」免許といえば、わかりやすいだろうか。

近年、私が最も懸念しているのは、無資格者のマッサージ(と称する)の類のもの、柔道整復師のマッサージ治療だ。
これらすべて、「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」の違反(第一条および第十二条、第十九条等の違反)のおそれがある。
従って、本来、法令によって取締りがなければならない。日本は、法治国家だからだ。

特に、柔道整復師が、マッサージ治療(彼らはそう言わないが)をする場合は、本来、「あん摩マツサージ指圧師」免許が必要になってくるにもかかわらず、「あん摩マツサージ指圧師」免許を持たず、健康保険でマッサージ治療を行っていることは、健康保険法第87条1項、昭和18年3月30日保発第796号違反となる。
※柔道整復師の施術は、急性などの外傷性の打撲・捻挫・および挫傷・骨折・脱臼の場合に限る(昭和18年3月30日保発796号)。

無免許者の治療はもちろん違法だが、免許者の本来許された免許行為からの逸脱は、法律上、決して許してはならない。
免許者の社会的な責務を果たさない許されざる行為は、結局は、自分たちだけはなく、国民、国家に多大な損害を与えることになる。
今後、このような法令違反の状態が改善され、真っ当な法治国家社会になることを切に願っている。

 

 

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